■導入:人は「正しい」より「好き」で選んでいる
条件はほぼ同じ。
価格も大きく変わらない。
それでも最終的に選ばれる会社と、そうでない会社があります。
この差を生んでいるのは、
商品の機能や説明の上手さだけではありません。
多くの場合、最後に決め手になるのは
「なんとなく、こっちが好き」
という感情です。
これは曖昧な判断ではなく、
人間としてごく自然な選択です。
■マーケティングの役割は、すでに変わっている
かつてのマーケティングは
「どう売るか」「どう集客するか」が中心でした。
しかし今、顧客は
●情報を自分で調べ
●比較し
●評判も確認したうえで
“選ぶ立場”にいます。
そのため、
売り込もうとするほど警戒され、
無理に説得しようとするほど距離が生まれます。
これからのマーケティングの役割は、
売ることではなく、 「安心して選べる状態」をつくること
へと変わっています。
■ブランディング・マーケティング・感情の関係
ここで整理しておきましょう。
●ブランディング
どんな価値観の会社かを示す
●マーケティング
その価値観に触れる機会をつくる
●感情(エモーショナル)
「好き」「信頼できる」「応援したい」が育つ
マーケティングは、
ブランドと顧客の“感情的な接点”を増やす活動なのです。

■なぜ「売り込まない会社」が好かれるのか
好かれている会社には、共通点があります。
●無理に勧めてこない
●良いことだけでなく、注意点も伝える
●会社の姿勢や考え方を隠さない
●人の気配が感じられる
これらはすべて、
「この会社は信用できそうだ」という感情につながります。
人は、
売られていると感じると身構え、
人を感じると心を開きます。
■具体事例:Nike(ナイキ)
― 人はシューズではなく「自分の物語」を買っている ―
Nikeが売っているのは、
スポーツシューズやウェアだけではありません。
Nikeが一貫して届けているのは、「挑戦するあなたであっていい」というメッセージです。
■Nikeのマーケティングが“好き”を生む理由
Nikeの広告や発信を思い返してみると、
次の特徴が見えてきます。
●商品の性能説明が前に出ない
●主役はモノではなく“人”
●トップアスリートだけでなく、普通の人も描かれる
●成功よりも、挑戦や葛藤が描かれる
そこにあるのは、
「この靴はここがすごい」という話ではなく、「あなたの挑戦を、私たちは信じている」という姿勢です。
■「Just Do It」がブランドになった理由
Nikeのスローガン
「Just Do It」 は、
機能説明でも、商品の約束でもありません。
これは、
●迷っている人
●自信が持てない人
●一歩踏み出せない人
に向けた、感情へのメッセージです。
だからNikeは、運動が得意な人だけでなく、「本当はやってみたい」と思っている人からも支持されます。
人はNikeを通して、“なりたい自分”を重ねているのです。
■Appleとの共通点
AppleとNikeには、共通点があります。
●商品よりも「思想」を伝えている
●スペックではなく「姿勢」を示している
●顧客に「どんな自分でいたいか」を問いかけている
どちらも、顧客が自分自身を投影できるブランドです。
マーケティングで「好き」が生まれるのは、この構造があるときです。

■中小企業に置き換えると、どうなるか
「NikeやAppleだからできる」と思われがちですが、本質はシンプルです。
たとえば――
●「安さ」ではなく「安心」を伝える
●「早さ」ではなく「寄り添い」を見せる
●「実績」より「姿勢」を語る
商品やサービスの奥にある“どんな価値観で仕事をしているか” を伝えること。
それが、顧客が会社を「好きになる」入口になります。
■マーケティングは「顧客の決断を後押しする行為」
顧客は、
理屈で比較し、
感情で決断します。
マーケティングの役割は、
無理に背中を押すことではありません。
●不安を減らす
●判断材料をそろえる
●気持ちよく決断できる状態をつくる
「納得 × 好意」
この2つが重なったとき、
人は自然に行動します。
■中小企業だからこそ、感情に強い
中小企業には、
エモーショナルなマーケティングに向いた条件があります。
●経営者の顔が見える
●現場の想いが伝わる
●顧客との距離が近い
これは、大企業には真似しづらい強みです。
■まとめ:マーケティングは「好きになるプロセス」を設計すること
これからのマーケティングは、
●売るための技術ではなく
●注目を集めるための手段でもなく
**「この会社と付き合いたい」と思ってもらう感情のプロセスを整えること**です。
Nikeが「挑戦」を、Appleが「創造性」を届けてきたように、企業はそれぞれの信じている価値を市場に届けています。
好かれる会社とは、自分たちの価値観を、誠実に、継続して伝え続けている会社です。
■次回予告
第6回:価格競争から抜け出すブランドの作り方
― なぜ“高くても選ばれる会社”があるのか ―

- 荒川 弘也
(あらかわ こうや)
アルファクリエイト株式会社 代表取締役
https://www.alpha-create.ne.jp -
広告代理店・デザインスタジオで経験を積み、30歳で独立。
アルファクリエイト株式会社を設立し、2025年に創業30周年を迎える。
企業理念は「デザインの力で世界を変える」。
デザインを課題解決と未来創造のための技術、そしてコミュニケーションの手法と捉え、 企業や社会の価値向上に寄り添うブランド戦略パートナーとして活動している。




