■仕事編
Q.今の仕事を知った(始めた)きっかけについて教えてください。
私が研究者として睡眠に関わることになったきっかけは、米テキサス大学で主任研究者を務めていた1998年に、脳内神経伝達物質の「オレキシン」を発見したことです。
当初は睡眠ではなく食欲に関する物質だと思ったのですが、やがてオレキシンが睡眠・覚醒に直接作用することが分かり、以来、「現代の神経科学最大のブラックボックス」とも言われる睡眠の研究にのめりこみました。
S’UIMINを創業したきっかけは、10年ほど前、数千匹のマウスの睡眠を脳波で調べる研究をしていた際に、「人間の睡眠も、同じように脳波で詳しく測ることができたら、いろいろな可能性があるのではないか」と思ったことです。
研究者としての好奇心もありましたが、それ以上に、ビジネスとしての可能性を感じ、アカデミアの活動とは別に起業することにしました。
Q.仕事内容についてご紹介ください。
(ポイントについてや、仕事によって何が変わるかを教えてください。)
株式会社S‘UIMINの代表取締役としては、会社のトップマネジメントに従事しています。このほかに、睡眠科学の研究者として、あるいは研究機関のトップとしての仕事もあります。
以前より研究組織のトップとして、自分の一番の仕事は「所属する研究者の全員が、自分で真に面白いと思える研究に自由に打ち込める体制を整えること」「やらされ仕事をしている人がいないようにすること」だと思ってきました。
会社の代表となった今、「その考え方は、会社の経営においても同じように大切だ」と感じています。ひとり一人と直接対話し、彼らが何をやろうとしているのかしっかりと理解していきたいと思っています。
Q.自分でビジネスを始めて得た最大の教訓がございましたら教えてください。
「コアな部分は、安易にアウトソースせずに、自分たちでやらなくてはいけない」ということです。
例えば創業間もないころ、ウェブシステムやデバイスの開発を外注していたことがありますが、やはりそれではなかなか本気のプロダクトにはならない。自社のエンジニアで進める必要がありました。
いまから思えば、大事なところを安易に他者に任せてはいけないことは、研究者としてのラボの運営でも分かっていたはずなんですが、会社経営は自分にとって新しいことで、すぐに気付くことができませんでした。
昨年に自分自身が会社の代表取締役となったのも、少し遅ればせながらその教訓を活かして、大事な部分は自分自身でやろうと思ったからです。
Q. 自信を無くした時、逆境に立った時の対処法がございましたら教えて下さい。
「開き直ること」です。人事を尽くして天命を待つ。自分自身にコントロールできないことでジタバタしないようにしています。
自分はクリスチャンで、「二ーバーの祈り」というのを大切にしています。「神よ、変えることのできないものを受け入れる静穏さを与えてください」「変えるべきものを変える勇気を与えてください」「そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください」という3文で構成されているのですが、この3つの祈りが私のフィロソフィーになっています。
Q.将来目指しているビジョンについて教えて下さい。
世界中の人が、自分の睡眠を大切に、積極的に良い睡眠を取ろうとするような社会を実現したい。それによって、人生100年時代のウェルネスを実現していきたいですね。ビジョンと言うより「夢」と言った方が良いかもしれませんね。
当社がサービスとして提供する睡眠脳波測定は、そのためのひとつの手段です。正確な睡眠状態をユビキタスに気軽に測定できるようになることで、いろいろなことが可能になると思います。
ヘルスケアとしては、ひとりひとりの睡眠課題の解決につなげたり、自覚しにくい睡眠課題を早くに発見したりすることができます。また、睡眠に良い効果をもたらす寝具や食品、あるいは医薬品等の開発にも貢献できると考えています。また、睡眠の重要性を社会全体に啓発していくことも大切です。
科学的なデータとエビデンスに基づいて、こうした「スリープイノベーション」を推進していくことが、当社の大きな目標です。
Q. 今、社内で足りてないリソースはございますか。
あらゆるリソースが足りないです(笑)。
何よりも人的リソースで「人が2倍いたら良いな」と思うことがあります。スタートアップあるあるだとは思いますが。
もちろんそれを支えるお金も必要ですが、何よりもリクルーティングが本当に難しいな、と感じています。
Q. 成長(成功)のために必要なものについて、何がございましたら教えて下さい。
私自身にとっては「好奇心」です。研究者・科学者として、これは譲れないところがあります。好奇心を原動力に、自分が本当に面白いと思ったことに取り組むようにする。これは、研究所の学生たちにも、会社の従業員にも大切にしてもらいたいと思っています。
また、組織として「話す相手によって態度を変えないこと」も大切にしています。立場が違うというのは、職務や役割が違うだけで、人間関係としてはフラットな方が良いと考えています。
Q. 連携したい企業(業種)はございますか。
睡眠は、計測すればそれだけで良くなる、というものではありません。
入口として、睡眠の重要性や自分の睡眠状態に気付いてもらうための仕掛けが必要で、出口として、睡眠状態を改善するようなサービスやプロダクトも重要です。あるいは、そうしたサービスを展開するためのプラットフォームも重要になるでしょう。
睡眠から新しいビジネスを一緒に創出していけるようなパートナーを求めていますし、自分たちもそのために十分な価値を提供できる企業でありたいと思っています。
Q. 憧れ、または尊敬する人はいますか。
研究者として、テキサス大学時代のボス(学科長)のジョー・ゴールドスタイン(Joe Goldstein)とマイク・ブラウン(Mike Brown)という2人のサイエンティストを尊敬し、ロールモデルとしています。
2人は1985年のノーベル賞受賞者なんですが、問題の目の付け所から、プロジェクトの立案、ストラテジー、タクティクス、さらにはデータの信頼性にたいするこだわりまで、あらゆる点で尊敬しています。
Q. 気 になる企業、目指したい企業はございますか。
正直に言えば、ありません。
睡眠を高精度に測定するという点は、なかなか類型のない、当社のユニークな点だと考えているからです。
逆に言えば、「どこかの真似をすればどうにかなる」という会社ではないので、新しい可能性を切り開いていきたいです。
Q. 失敗エピソードがあればぜひお願いします。
とある商談でサービスについて質問をいただいたところを「まだ、ちょっと分かっていないんですよね」と本当に素直に「分からない」と言ったら、先方に「まだ信頼性がない」と感じられてしまったことがありました。
私自身は根が研究者で、オープンマインドな人間なんですが、商談や営業の場では違ったコミュニケーションが必要なんだと反省しました。
■プロフィール編
Q. 子供時代について、ご紹介ください。
小さいころから変わった子で、現代だったら完全にADHDと診断されていたと思います。学校でも、おとなしく座っていることができない、隣の子とすぐにお喋りし始める、それで廊下に立たされたら校庭に勝手に遊びに行ってしまう、と、手に負えない子供でしたね。
小学1~2年の担任の先生には、うまく育ててもらったと思っています。当時私は、クラスで唯一、百科事典が使える子だったんですよ。だから、私の落ち着きが無くなってくると、授業のキーワードになりそうな言葉をピックアップして、「柳沢君、これ、図書館で調べてきて」と言うんです。廊下に立たせるのではなくこうしてミッションをあたえて、言ってみれば、教室から「追い出す」方法を編み出したわけですよね。私自身も調べるのは楽しかったし、30分くらいしてから教室に戻ってきて自慢げに報告することができた。授業はその間にちゃんと進むし、誰にも迷惑をかけずに、みんながwin-winの関係になっていたと思います。
Q. 子供の頃の夢は何でしたか?
母親によると、小学1年生の時にはすでに「研究者になりたい」と言っていたらしいんです。
低学年の頃には、父親がエンジニアから医学部に学士入学して医局で基礎研究をやっていました。その大学の研究室に遊びに言って、学校の宿題で、生物の実験をしている自分の姿を描いたこともあります。多分父親のコピーなんでしょうね。
結局それが、大人になるまでブレずに、研究者になりました。
Q. 駆け出しの頃に役立ったこと、出会いについて教えて下さい。
研究者として駆け出しの頃であれば、2つあります。
ひとつは大学院。医学部を卒業したんですが、臨床医にならないと決めて、大学院に進みました。最初の年に、理学系研究機関である岡崎の基礎生物学研究所というところに国内留学させられました。
そこで、だいぶ視野が広がりました。医学部と理学部はメンタリティが全然違う世界なんですよね。生物学の基礎的な部分や、研究手法とかについても、自分がいかに何も知らないかを思い知って、とても有意義でした。
もうひとつは、「尊敬する人」のところでも説明した、テキサス大学時代のボス(学科長)のジョー・ゴールドスタイン(Joe Goldstein)とマイク・ブラウン(Mike Brown)という2人のサイエンティストとの出会いです。彼らの姿勢というか、科学・サイエンスのやり方を学んだという感じですね。
Q. 仕事のために払った最大の犠牲は何でございますか。
何かを犠牲にしたという意識は、家族もつくったし、あんまりないですね。
Q. 自分自身のモットー、座右の銘について教えて下さい。
科学者として「事実は仮説より奇なり」と自分に言い聞かせています。パソコンのスクリーンセーバーにもこのメッセージが出てきます。
それから「人と違うことを恐れない」こと。
もうひとつ、「良い問いを見出すことは、問いを解くことよりも難しい」と考えて、「問い」を大切にしています。「問い」は「切り口」と言い換えることもできるので、会社事業にも言えるのはこれかもしれませんね。
Q. ご自身のセールスポイントについてご紹介ください。
開き直れることですかね。
研究所にしても会社にしても、組織のマネージャーやリーダーがカリカリしているのは良くないと思っています。みんなにその雰囲気が伝わってしまうからです。私も100%ないとは言えないですし、怒ることもありますが、なるべく出さないようにしています。
あ、でも、立場が上の人に歯向かうことはありますね。理不尽なことは「理不尽だ」とはっきり言う性格なので。それもセールスポイントかもしれませんね。
■会社概要編
①サービス内容(一言で言うと?)
誰でもどこでも医療レベルの精度で睡眠脳波を測定できる「睡眠計測サービス」を展開しています。
②解決している課題
正確な睡眠計測は従来、入院検査が必要で、検査できる施設も限られており、気軽に受けることができないという課題がありました。
また、睡眠状態を把握する手段としてはほかに、活動量計等を活用したデバイスや、主観的な感覚による評価がありましたが、いずれも睡眠状態を正確に把握することが困難でした。
③顧客の価値提供
ヘルスケア事業では、個々人の睡眠状態を正確に把握し、睡眠障害リスクや改善アドバイス等を加えてレポートするサービスを展開しています。睡眠は生活習慣病や認知症等の重大疾患等との関連もあり、睡眠課題の発見や睡眠の改善はもちろんのこと、QOLそのものを高めていくことにもつながります。
研究開発支援事業では、睡眠状態を高精度に把握・評価することにより、確かなデータとエビデンスに基づいて、睡眠に関連するサービスやプロダクトの開発を進めることができます。
④商品の特徴
睡眠状態の判定精度は、睡眠検査のゴールドスタンダードであるPSG検査と同等で、深い睡眠やレム睡眠などを正確に判定することができます。
機器を数分で装着でき、誰でもどこでも簡単に使うことができることも大きな特徴です。
また、デバイスがIoT化されており、独自のAI解析システムによって、大容量の脳波データをクラウド上で瞬時に解析することができます。
デバイスが医療機器認証を取得しているため、睡眠障害の診断や、プライマリーケア等の予防医療、創薬における治験や市販後調査にも活用することができます。
⑤なぜ その特徴を実現できるのか?
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構を母体としており、睡眠専門医や検査技師等をはじめとする睡眠の専門家のネットワークや、睡眠医科学の研究で培ってきた睡眠脳波の測定技術等を活かすことができるためです。
睡眠脳波をAIが正しく解析するための良質で十分な教師データも、サービスの実現には欠かせません。
⑥比較されている競合他社
脳波を測定して医療レベルの精度で睡眠状態を判定するサービスとしては、あまり競合する相手がいないものと考えています。
睡眠を計測するスリープテックはさまざまですが、当社のサービスは、活動量計で身体の動きから睡眠状態を推定するものとは、長所も短所も大きく異なるものです。
⑦競合優位性はどこにあるのか?
医療レベルの計測精度と、誰でもどこでも使える汎用性を兼ね備えている点は、ほかにはないサービスの大きな強みだと考えています。
ご回答いただきありがとうございました。
株式会社S’UIMIN
Webサイト:https://www.suimin.co.jp